スマートフォン版へ

マイページ

8件のひとこと日記があります。

<< 高知競馬場に... ひとこと日記一覧 >>

2018/06/26 23:09

第41回帝王賞に

 浦和競馬場の無声パドックがノイズを交えながら、画面に映っている。インストで流れるProcol Harumの青い影。どの競走馬も機嫌が良さそうには見えないけれど、それ以上にマコは不機嫌そうだ。ミチオさんならいない、と手元のモニタから目を離さずに告げてくる。あの夜、電話を折り返した後、俎橋を日本橋川が流れる方面に曲がってしばらくの場所に事務所を開いた。厳密にいうと、手続きを代行した。ファンダンゴを踊る気分のはずもなく、窓を開けると目の前には首都高速5号池袋線。梅雨時期とは思えない日差しの生みだす建物の陰影が倒れこむように高架へと交わり、隙間を縫うように飛び込んでくるか細い光は、低音で呻く室外機に反射しながら川面に身を投げ続けている。重馬場ならケイティブレイブ、それと、ジンソクからヒガシウィルウィン。差し入れのスパイシーチキンサンドを齧りながら、マコはPCにデータを喰わせるとそう呟いた。視線を落とすと、川縁には紫陽花が青藍に色づき、日陰の中で川下りのための小舟が涼しげに佇んでいる。あいつは掘出し物だよ。履歴書すら持ってこないマコに出身を聞けば、東海岸出身と言ってのけ、面を食らったミチオに大森海岸だけどと答えて即採用になった。兄さんも、競業避止義務違反じゃないし、時間も取れるだろうと冗談まじりに言われながら、結局、加担した。昔とは逆、ミチオが自分を。首都高の生みだすカーブから直線をなぞる視線は、大井の柵越しに眺めるそれと変わらず、この場所を選んだ理由はすぐに分かった。全て置き換わるんだ。語気を強めたミチオの言葉で、第21回帝王賞を想い出した。アブクマポーロと石崎のまさに帝王にふさわしい勝利。でも、バトルラインメイセイオペラの青い帽子の2、3着にぶち込んだ。ガキだった自分とミチオは雨の中で立ち尽くした。紫陽花は雨に濡れると藍に近い青に変わる。厳密には土の成分の作用だけれど、その方が素敵だと思わない?とエリーに言われて、青い帽子を選んだ。英さん達に加わり、逆流を選択する少しだけ前の話だ。呼び戻されるように、マコがキーボードを叩く音が響く。どんな変数を喰わせたの分からないけれど、ケイティブレイブの確率がより高まったようだ。眼下の紫陽花にもう一度視線を落とす。一息ついて、マコに伝えた。第41回帝王賞は、アウォーディーリッカルドの馬連1点、赤枠のゴールドドリームとジンソクを絡めて枠3-4もおさえる。シャットダウンした画面のような漆黒の髪を耳にかけたマコのため息が聞こえる。裏付けが全くないわけではない。帝王賞の武豊の連対率、3走連続同距離同コース。重馬場ならサウンドトゥルーは届かず、ケイティとアポロはダイオライト記念からのローテが気に食わない。何より、紫陽花は雨に濡れ、青藍を深めながら赤紫を身に纏う。これは自然の摂理だ。データでどう表現する?マコは興味を無くしたように、AlexanderMcQueenの新作のカタログを見始めた。Gary Brookerは歌う。「理由はない。真実はこの通り。」僕はエレベータを待ちながら、6月のイメージを取り戻そうとする。置き忘れの傘みたいに冷たい壁にしなだれて。

お気に入り一括登録
  • ファンダンゴ
  • ケイティブレイブ
  • ヒガシウィルウィン
  • スパイ
  • アブクマポーロ
  • バトルライン
  • メイセイオペラ
  • キーボード
  • アウォーディー
  • リッカルド
  • ゴールドドリーム
  • サウンドトゥルー

いいね! ファイト!