≪競馬は命の恩人だ≫　　“とんかつ”と質屋、そして競馬　　（その壱）

初めて競馬に触れた頃、それも随分と昔の事で、
その当時、ケツの青い貧乏学生の分際で、競馬なんぞは別世界の娯楽と思っていたが、

東京での一人暮らしにも慣れた頃の、ある日の事だった。
自炊生活にも飽きて、何故か“とんかつ”が食いたかった。　それも分厚いやつ。
当時、巷では“トンテキ”と言われ、昼間から豪勢に“しゃぶり“つけるのは不動産屋のオヤジ程度(;´Д｀)

ああ、　　　あの“とんかつ”をガブリと食いてえ！　　
手持ちの金は二百五十円、分厚い“とんかつ”を食うには、あと五百円も足りなかった。
当時、駅前の“かけうどん”が確か二百参拾円で、吉野家の牛丼並は参百五拾円と高値であった。

よーく考えろ、、、現実も考えろ、、そして、夢を実現させろ(^^;)　

“とんかつ”、、、ガブリとイったら、、、大感激するだろう、、、、
とんかつ屋の前を何度も、うろついているうちに、無性に食らいつきたくなった。

基本、拝金主義者ではないが、お金が、これほど尊く、価値のあるモノであることを痛感した瞬間でもあった。

ふと、時間を見たら、午後1時を目指していた。
うむむ、そうか、この腕時計を質屋で換金すれば、銭になる。　

ひゃっほー！　“とんかつ” “とんかつ”

いや、待てよ、、、、、、この時計は、入学祝いに貰った大切な代物だ。　それも、世界の“セイコー”だ。

こんなことをしたら、きっとバチが当たるに違いない。　　どうするべか＊　
しかし、腹の中はもう限界、　“失敗はセイコーの元”と誰かが言っていたな。

よっしゃー！　いったれ！　これが人生最初の質屋入りであった。
腕時計を預けて貰った額は、なんと3千円もあった。　　さっそく、とんかつ屋へ。

――――何かが微妙に違う――――
“とんかつ”を待っている間、、、心境は複雑であった。
何故か、セコイ犯罪を犯したような罪悪感と、いつも、傍にいてくれた恋人を失ったようだ。

“とんかつ”が来ても、ずっと下を向いていた。

同時に涙が、ボロボロ。。。。。。。。と零れて止まらなかった。　
憧れの“とんかつ”が切ない“とんかつ”になった。　　

とんかつ屋を出ると、自分が情けなくなり、同時に、無性にも腹が立った。　
目的は唯一つ。　“大切なセイコー”を取り戻すこと。　その一点しかみえなかった。

脚は、焦燥に駆られて、御茶ノ水から後楽園へと向かっていた。
軽快な脚はディープインパクトのように宙を舞って、電車に乗るより速かった(^_^;)

今日は天皇賞（春）の開催日。　
前日、悪友から誘われたが、銭なしで返事もできなかった。
それに、馬なんぞは全く解らずも、武豊だけは、当時から話題になっていたので、
軸は武ちゃんと決めていた。　
確か、当時は枠連しかなく、武ちゃんが1番1枠で、武ちゃんが来たら“いいなぁー”と、
枠連の１−７へ5百円の1点買いだったと思う。　

　後楽園の地下ホールで、“ニワトリ”のようにチョロチョロと動き回るうちに、
ラジオの音に耳を傾けたーーー

(実況)　直線コースに向きました。　先頭は、ランニングフリー？　、、（なに？）
イナリワンが内から来た！　、、、、　イナリワンだ、、リードは3馬身、、4馬身、、、、
（来たー！　武ちゃんだ）　2番手は、どうやら、、、、ミスターシクレノン？（むむ、、）
イナリワン独走、、、リードは5馬身に広げてゴールイン。　　

＊電光掲示板をみると�　櫚�が点滅している。　
��っていえば、、、、、あああああ、、、、7枠だ！　ナナワクっぅ！　　やったー！

なんと1番人気の岡部が敗れて3着、ミスターシクレノンは16番人気（枠だから関係ないが）

枠連の配当は、3320円もあった。　5百円が1万6千円以上に跳ね上がった。

“とんかつ”で泣いている場合ではなくなった。　ビーフステキが食えるぅ。
牛が食えるなんて、こんな素敵なことはない。


≪追記≫　“とんかつ”の実勢価格　　＊レヴェルは“竹”で普通のお店

当時　　750円から880円　　とんかつ　ご飯、キャベツ　味噌汁（シジミ汁）付録　たくあん
現在　1300円から1600円　　とんかつ　ご飯　キャベツ　味噌汁（赤だし）　付録　御新香＋ドリンクあり

問題は豚の素質で、当時は、根性ブタが多く、ジューシーで噛み応えがあったが、
現在は、ヘルシー豚（無菌豚とか）で“あっさり”し過ぎでは？