8件のひとこと日記があります。
2019/08/10 15:26
シャルさんと父アローの想い出〔2〕
牧場に到着すると、少々興奮した気持ちを抑えつつ、
私はハマキヨのいる馬房を訪れた。
アローハマキヨは、馬房の中でしっかり立って、
初めての訪問客である私を、穏やかながらも不思議そうな顔をして眺めていた。
調度これから放牧に出かけるところだったようで、
お世話されている方に引かれながら、ハマキヨはゆっくりと馬房から外に出ていく。
私もその後に続く。
と、いつもの日課らしく、道のわきに生えている草を食み始めた。
私はハマキヨの邪魔にならないよう、そっと近づき鼻づらに手を当てた。
ハマキヨは大人しく、受け入れてもらったように思えた。
ハマキヨに触れていると、
その父アローエクスプレスに初めて巡り合った時のことが
少しづつ脳裏に蘇ってきた。
触れているハマキヨが次第に父アローの影と重なっていく…
・・・・
今から46年前、昭和45年3月。私はその時中学2年。
前年夏より腎臓を患い、中学生でありながら自宅療養を強いられていた。
今では決して重い病気ではない。
ただ、それまで病気らしい病気を経験したことがなかった私にとっては、
将来の自分を左右するかのような重病に思えた。
3学期になっても病の回復は遅れ、進級も危ない状況だった。
そんな3月のある日曜、以前から時々競馬中継を楽しんでいた母親から、
「今年は関東に強い馬がいるんだって」
という話を聞く。
それまで私は競馬にはさしたる興味もなく、
無気力な気持ちで聞いていたような憶えがある。
ただ、どうゴロゴロしているだけだ。
たまには見てみようかという程度の気持ちで、
そのスプリングステークスというレースを見ることにした。
昭和45年3月22日、スプリングステークス。
今でも重要な皐月賞トライアルレースである。
この年は東のアローエクスプレスと、西のタニノムーティエの一騎打ちムード。
後に東西対決代表例として歴史的にも語り継がれる。
〔3〕に続く