まだまだ私は走ります(11/28ﾜﾝﾀﾞﾌﾙﾀｳﾝ)

怪我のことは後から知りました。レースの当日、他馬が暴れたのに驚き自ら馬房の壁にぶっつけてほぼ片目が塞がるほど顔が腫れていたそうです。それを聞いてまた泣けました。て言うか、20年前の話なのに、今考えるだけで未だにおっさん、涙と鼻水垂れ流しです。
スタート後、全部の馬が一歩も彼らを先に行かせんとばかりに壁となって立ちふさがりました。この年は未だ負け知らずという、このコンビですでにとんでもない成績をあげてはいましたが、まだその時若かった鞍上は、時々馬上で伸びあがって、砂煙に満ちた中山のターフの先をどうにか見通そうと必死でした。まさに有終であるＧＰまでかっさらわれ、年間無敗を目の前で達成されるなど、岡部や武豊他ずらりと並んだ名騎手たちが簡単に許すわけもありません。ずっと馬群の後ろに置かれたままレースは進み、前は水も漏らさぬくらいにピタッと閉められたまま一流馬達は固まりとなって最終コーナーを回ってきました。
その時、僕はすでに彼らを見失っており、もう1頭厚く買っていたステイゴールドと後藤Jの緑帽子を好位に見つけ、そちらを応援しようと薄情にも気持ちをトットと切り替えていました(そんな裏切り野郎にお似合いな勘違いですが、実はワーワー騒いで応援してたその馬は、同枠のもう1頭ダイワテキサスでした。ステゴは馬群に埋もれっきりだったようです)。中山の短い直線、嵐のような歓声の中、最後の追い合戦が繰り広げられました。
ルートが全くなかった彼らは迷わず馬群の中に突っ込んでいました。やはりメイショウドトウか？と外から伸びてきた宿敵に初黒星を喫するのを覚悟した瞬間、その内を彼らは割って出てきました。その姿はなんだかボロボロに見えました。これも後に知ったのですが、馬主の竹園氏は「馬も騎手も涙が出るほどかわいそうだった」と言ったそうです。こっちはこれを聞いてまたもホントに涙ボロボロでした。
いや、ブラウン管に向かって叫んだ叫んだ。さっきまでの裏切り行為などなかったかのように僕は吠えまくりました。前など一切見ずに全身で押し続ける和田竜二と逆に前だけをにらみつけ、その気合に応えるテイエムオペラオー。抜けきってチラリと鞍上が食い下がるライバルを見た瞬間がゴール板でした。
僕は飛び上がり安ベッドの角に向う脛を嫌というほどぶっつけて、しばらくのたうち回りました。その直後には奇声のあまりの騒がしさに、隣に住んでいたアパートの管理人さんから怒りの訪問も食らい、こっぴどく説教もされました。記念馬券を買うのを忘れ、単勝5000円は換金せずに渋々取っておくことにもなりました(まあ確か2倍切ってたはずですがね)。なんだか失うものもいくつかありましたが．．でもいいんです。最高のコンビを見られた2000年の有馬記念は今でもおっさんの宝物ですから。

「まだまだ私は走ります。あなたのように速く強くなりたいから。」
2018年オペラオーが急逝したときに寄せた和田Ｊのコメントです。

そして2020年。「めちゃくちゃ走る」と和田Ｊがデビュー戦後にコメントしてから(ただし2着)、何度も調教にまたがって付きっきりで仕上げてくれた今年の指名馬エース、ワンダフルタウン。前走萩Ｓを仕上中途で3着に敗れたが、こちらの期待は全く衰えず。なぜならそのコンビに20年前のオペラハウスの代表産駒の雄姿を映してみているから。
挑むは11/28芝2000京都2歳Ｓ。ここできっちり賞金を積んで来年を見据えよう。7枠8番。10頭立て3番人気。行け！！
スルッとうまいこと出て也で控える状態に。じっくり余裕が持てる出だしで外目7番手を様子を見ながらの周回。3コーナーあたりからジワリジワリとまくり上げて行き、最終角を外目から並ぶこの子らしい展開へ。さあ勝負の直線。入り口ですぐにムチ．．．脚色が変わらない感じに一瞬焦りましたが、残り200を切ってから来たっ！ローギアからかみ合った瞬間からグッと一気にスピードが乗ると外から突き刺すように低い姿勢で、1番人気ラーゴムに迫り、差し切ったところでフィニッシュ。うらああああ！！！！
和田J談「スタートがよかったし、先行が多い組み合わせだと思ってたので、流れを見ながら運ぼうと思っていた。目標の馬が前にいたし、いつでも外に出せるところで運べた。展開が向いたし、少し早めに踏んだが最後まで長い脚を使えた。スタミナがあるので、距離が伸びて賞金を加算できたのは、先々楽しみ。決め手もしっかりしていて、頼りになる相棒です。」

頼りになる相棒です。ああ・・・あの時の幻影をもう少し重ねてていいと言われてるようだ。