探究者

　福岡ソフトバンクの内川聖一内野手（３５）がプロ野球５１人目の通算２０００安打を達成した。王手をかけて迎えた９日の西武戦（メットライフドーム）で３打席凡退後の８回に武隈から中前打を放った。出場１８００試合目は達成ペースで歴代９位、右打者では３位で、達成時に４番を打ったのは１２人目。故障が相次いだ昨季はひそかに引退も覚悟した主将が、苦しい道のりを象徴するような１５打席ぶりの安打で金字塔を打ち立てた。

　■友人に涙の告白

　やっと、解き放たれた。王手をかけて１５打席目の８回１死一塁。武隈のチェンジアップを捉え、手に残った感触はなじみのあるものだった。２０００本目の打球が中前で弾む。内川はベンチで見守る仲間に向かって右腕を突き上げながら一塁ベースを駆け抜けた。

　「やっと、やっと打てた。自分が自分ではない、ふわふわした感じだった。福岡で３試合あって、そこで何とかと思ったけど…。選手の一人として、チームに迷惑を掛けているのが苦しかった」

　あと２本としたのは２日のロッテ戦。翌日から３試合での達成を見越し、５日の試合後に家族や友人らを福岡の自宅に招いての宴席を企画した。すし職人も呼んでいた宴席は想定外の激励会となり、ケーキのプレートの文字は「あと１本」に変わった。４番にとっては、歓喜より安堵（あんど）が上回る１本だった。

　首痛による離脱から復帰して間もない昨年７月。本拠地で、自らの失策が敗戦につながった試合後だった。大分から応援に駆け付けた友人に漏らした。「俺、やめようと思う」。２０００安打目前での引退宣言。胸の内を言葉にすると感情があふれ、焼き肉店の個室におえつが響いた。

　偉業は「通過点」。周囲から言われても、そのまま受け入れることができなくなっていた。「これからの野球人生、２０００安打以上のことがあるのかな」。４年契約の最終年に、迷いは深まるばかりだった。

　葛藤の中で再び故障に見舞われた。偉業へ残り３０本とした同月末、左手親指を骨折。結果的に９年続けた規定打席到達が途絶えるけがになった。リハビリ中の８月６日には父方の祖父寛さん（享年８５）が他界。幼少時、高校野球の監督だった父一寛さん（６１）に休みはなく、学校が長い休みになると大分県内の寛さんの家に預けられた。車庫でトスを上げてもらったり近くの川へアユ釣りに連れていってもらったりもした。今では趣味のゴルフを教わったのも寛さんだった。

　■亡き祖父に誓う

　皮肉にも移籍後初めて長期離脱したことで参列がかなった葬儀の日。「２０００安打、見せられなくてごめん」。涙ながらに言葉を絞り出していると思い出した。移籍で九州に帰ってきたのは、今まで支えてくれた人に自分のプレーを見てもらうためだった。

　寛さんにはＷＢＣから帰国後の３月、自身のサインを入れた大会公式球を贈っていた。余命わずかとされていた祖父は枕元に置き、一時は生気を取り戻していた。「（参列は）じいちゃんに呼ばれたんだと思う。まだ続けろって。やめようと思ったときに限って、野球が僕を離してくれなかった」。腹は決まった。

　生と死。その敏感な感覚の背景には１６歳の時の経験がある。大分工高１年の夏休み明け、睡眠中に左かかとがうずいた。骨のう腫と診断され、即入院。良性の病ながら３度目の手術では自らの腸骨を移植した。計３カ月に及んだ入院中、病棟で中学時代のクラスメートと再会。サッカー部だった彼は「骨のがん」といわれる骨肉腫で、退院後に亡くなったことを知った。

　「自分も悪性なら骨肉腫だった。野球をやれるのは普通じゃないと思った」

　当時の思いが自らを突き動かす。１３年、東日本大震災の復興支援として福島で行われた球宴でＭＶＰを獲得。翌年から毎オフ被災地での野球教室を続ける。子どもたちに「どうやったら打てますか」と聞かれればこう答える。「毎日振り続ける。今日やったことが、明日の結果に出ることはない」。簡単に正解を教えないのは、自分自身がまだ正解を探しているからだ。「探さなくなったら、もうやめるだろうね」。２０００安打は、やはり通過点。打者内川の探求は続く。　


　
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　王会長「とにかくお疲れさん」

　王球団会長は花束を手に内川と抱き合い偉業達成を祝福した。苦しみ抜いた末の一打に「大変な重圧だったと思う。本人が一番ほっとしているだろう。すんなり出るより、こういう方が感激は大きいよね。とにかくお疲れさん」とねぎらった。チームが首位西武に連勝したことも踏まえ「これで（内川は）平常心でできる。チームも、どっしり足をつけて戦えるのでは」と期待した。


記事は西日本スポーツ様より・・・。