まんぐーすコラム

【しあわせ】

通勤電車にゆらゆら揺られて、毎日同じ所に足を運ぶ。
大体同じ時間に出社して、大体同じ時間にまた電車に乗る。

車内を見渡せば、疲れ切った人や携帯ゲームをする人、雑誌を読む人様々だ。

ふと思う。
この人達は幸せなのだろうか?
人の事を云えた義理ではないが、毎日ぼんやりとそんな疑問を抱く。

じゃあ俺は幸せか?
考えるにつけ、いつも幸せでは無いという答えに辿りつく。

閉じた世界。
日々漫然と過ごす日常。
ぼんやりとそんな事を考えた。

通勤途中にデカい犬小屋がある。
小屋の中には見窄らしい老犬が一匹。
いつもつまらなそうに通りを見ている。

小屋の前を通る度に思う。
「そんな狭い場所に鎖で繋がれてお前は幸せかい?」
自由に出歩ける分、俺の方が幸せなのかな?
哀れみの感情を抱き、毎日犬を横目に通勤する。

次の日も、また次の日も犬は繋がれたままだ。

ある日犬に話しかけてみた。
「暇そうだね」
犬は鼻をフンとならしこちらを一瞥した。
返事などするわけもない。
ただただ犬が哀れでならなかった。


ある日犬小屋の近くに人影があった。
犬よりもずっとずっと老けた男がそこにいた。
犬は老人にすり寄り、尻尾を激しく振っていた。

すれ違い様、犬を見た。
笑顔だった。
表情など無いのだけれど、確かに笑っていた。
とても幸せそうに。

いつもの電車に揺られ、ぼんやりと考えた。
「あいつは幸せだったんだな」
俺は幸せなのかな?
また同じ答えにたどり着く。


家に帰ると携帯がけたたましく鳴った。
親父からだった。

「たまには連絡ぐらいせい!みんな心配してるぞ!」
怒鳴られた。嬉しかった。


ああ、なんだ俺も幸せじゃないか。