迷子のグー【猫鼬の村:後編】

いきなり突進してきた二匹に気圧されて、狼達が浮き足立つ。

狼達の数メートル手前で、マイセンは素早く跳躍した。

驚き一斉に天を見上げる狼。
その足元には、いつの間にかレオルが忍び寄っていた。

がぶり!

レオルは素早く飛び跳ねると、手前にいた狼の喉元に噛みつく。

狼
「グゥウウ…」

狼はレオルを振り払おうと、必死に頭を振った。
しかし、頭を振れば振るほどに、レオルの牙は深く食い込み外れない。

パニックに陥った狼達の真上を黒い影が覆う。

狼がそれに気づいた時には既に遅く、二匹の内の一匹はマイセンの太い足で頭を踏み抜かれていた。

更に残りの一頭が抵抗を試みるより速く、踏みつけた狼の頭を踏み台にし、マイセンは強烈なぶちかましを放った。

狼はそのまま二メートル先の木にしたたかに体を打ち付け、動かなくなった。

息を切らし、マイセンがレオルの方を見やる。
レオルに噛みつかれた狼は、長い舌を口から垂らし、既に窒息していた。

レオル
「へっ、心配無用!(￣∀￣)」

マイセン
「ふん…、誰が心配なんぞするかよ!」

レオル
「ちぇ、こっちは一匹しか倒せなかったぜ…」
「まだまだ暴れ足りねぇ!」

マイセン
「くく…、そりゃあよかった、奥見て見ろ…」

レオル
「…!」

レオルが振り返ると、そこにはしなやかな体つきの一匹のドーベルマンと、先ほどの狼達より一回り大きな二匹の狼が、凍り付くような視線でレオル達を見つめていた。

ドーベルマン
「フヒヒヒ、久しぶりだなぁ…チビ助…それと…」

ドーベルマンが視線をマイセンに送る。
「マイセン!この裏切り者がぁあああ!」

レオルは無くなった尻尾が疼くのを感じた。
ぐっと奥歯を噛みしめ、強ばった笑みを浮べながら、嫌な汗を大量にかいていた。

レオルは震えていた。

マイセン
「くく…、死に損ないはしつこくていけねぇやな」

大きな狼
「黙れ!雑種がぁ!」

マイセン
「おいマルよお、お前ら双子は一匹じゃ何にも出来んようだなあ」

大きな狼…、双子のシベリアンハスキー達は怒りの感情も顕わにマイセンを睨みつける。

ボロ
「…マル!落ち着け!」

マル
「…ぅうむ」

双子を挑発するかのように、マイセンは大きなあくびをするとこういった。
マイセン
「ふぁああ…、なぁ?ボロっていうのは馬のクソの事だって知ってるか?」
「マぁルいクソだ、てめぇら二匹でよ!へっへ…」

マイセンが二人を挑発する。突如、微笑を浮かべそれを見つめていたドーベルマンが、大きな笑い声をあげた。

ドーベルマン
「フヒッ!フヒヒヒヒ…」

背後からの笑い声に、双子は反射的に身構えた。

ドーベルマン
「マル、ボロ…。ひっかかるんじゃあないよ」

双子を割って、ドーベルマンが歩み出る。
その動きを双子は、畏怖の感情を込めた眼で見送る。

マイセン
「くく…、セイラム…。てめぇはホント食えん奴だなあ」

セイラムと呼ばれたドーベルマンは、冷ややかな眼でマイセンを見つめる。

セイラム
「いかなお前といえど、我ら三体を同時に相手になどできまい…フヒ…」 「挑発で乱そうなんて…これだから雑種は嫌なんだよ…フヒッ!」

マイセン
「…ちっ」

マイセン達のやりとりを、レオルは足の震えを抑えながら聞いていた。

一年前、仲間を襲った犬達の残党。
レオルの兄、レオを殺した仇。
あの日幼かったレオルは、震える事しかできなかった。

そして、今も…。
レオルはただ震える事しか出来ずにいた。



つづく