想い出の天皇賞(秋)

天皇賞は1905年の「エンペラーズカップ」に起源を持ち、1937年に第１回「帝室御賞典」として施行され、歴史を重ねて、2014年11月2日の天皇賞(秋)が節目の１５０回目となる。皇族の名前が入る由緒正しきレースは自ずと居住まいを正してしまうものだが、国の象徴たる天皇が巡幸し、下賜されてきた天皇賞は日本競馬にとって最も特別なレースと言える。

そんな背景があるから天皇賞が古馬の最高峰、いや競走体系の中心に位置してきたのは言うまでもない。また帝室御賞典時代から1980年まで「勝ち抜き」制度が設けられていたことはあまりにも有名。一度勝った馬が再度出走し、敗戦すればレースの威厳を損なう。この措置からも数あるＧ１競走の中でも絶対的な格を備えていたことがわかる。

1956年に有馬記念、1981年にジャパンカップが創設されるまで全馬が目指す大目標だった天皇賞もジャパンカップの巨大化(圧倒的な高額賞金・海外からの招待によるレースの充実)などに押されて、今やその叩き台と呼ばれるほどに権威が失墜している。天皇への信仰心云々の話は置いても日本競馬の枠組みを担ってきた大レース。なんとか方向の転換を図ってほしいものである。


時は2004年。迎えて130回目の天皇賞が筆者にとって、いわゆる初めての「秋天」となった。歴史的な背景など全く理解していなかったが、それでも横文字が並ぶレースよりも妙に緊張感があったのは覚えている。日本人なら誰しも感情に変化をきたす。それが天皇賞の品位。つけ加えるならば当時は今よりもレース自体にも活気があった。

一応の主役はいたが、候補に留まる馬が多く、まさに十指に余る大混戦という表現がぴったりだった。直前の毎日王冠を制し、満を持して登場した東京の鬼テレグノシス。そのテレグノシスを安田記念で撃破した前年の２着馬ツルマルボーイ。武豊から安藤勝巳という名手リレーで悲願を狙った良血リンカーンに宝塚記念２着のシルクフェイマス。

他にもローエングリン、バランスオブゲーム、ヒシミラクル、サクラプレジデント、ダイワメジャーなど個性豊かな俳優陣が軒並み顔を揃えた一戦となった。かりそめに出走が叩き台であったとしても盾の求心力は健在だった。この伝統あるレースを舞台に一躍功名を上げたのがＧ１未勝利ながら１番人気に支持されていたゼンノロブロイだった。

天皇賞以前のゼンノロブロイは大崩れのない優等生だったが、Ｇ１成績(２)(４)(３)(２)(４)着が示す通り大一番に弱かった。しかも本来必勝であるはずの前哨戦さえも取りこぼし、04年は未勝利の有り様。そんな詰めの甘いゼンノロブロイに天皇賞はスターホースへの階段を用意した。言わば格を預けたと同義である。

世界の名手オリビエ・ペリエを新たなパートナーに迎えたゼンノロブロイは外枠から一旦下げて馬群に潜り込むことに成功。あとは直線でのスパート機会を窺うだけ。直線に向くと目の前は労せずビクトリーロード。馬場の真ん中を堂々と疾走し、迫るダンスインザムード、アドマイヤグルーヴを振り切った。その後は史上２頭目となる秋の古馬グランドスラムを達成。まさに競走生活の大転機となった天皇賞だった。

残念ながら今年も世界に重きを置いたジャスタウェイ、ゴールドシップ、ハープスターら日本を代表する３頭がそっくり欠けた。ジャパンカップを連覇中のジェンティルドンナに盾は微笑まない。シンボリクリスエス以来の３歳戴冠を狙うイスラボニータも役者不足は否めない。天皇賞の申し子。府中が産みを落とした怪物。勝つのは間違いなくあの馬だ。


【カシオペアＳ】は◎ウインフルブルームが主力。ダービー取り消し以来となった神戸新聞杯はトップボンバーにハナを譲り、無理せず２番手。途中で先頭に立つものの粘り切れず上位陣からは大きく離された１３着。ただ中間の時計が４本に加えて、強い調教もなかったことから明らかに試走の意味合いが強かっただけに参考外だ。

短期放牧を挟んで叩き２戦目となる今回は坂路で一杯を２本。直前は自己ベストタイとなる4F52秒9をマークし、ラストまでスムーズに加速して上がり12秒2だから状態面は完璧に復調している。前走で初めて３着以内を外したが本来は堅実無比。持ち前の先行力を生かすには京都の高速馬場は絶好。皐月賞３着馬がこの相手に負けられない。

まともなら同じ３歳馬でポートアイランドＳ２着のアズマシャトルが相手筆頭も、捻るならば○マコトブリジャール。クイーンＳ６着、府中牝馬Ｓ１１着と冴えない近走だが決して弱いとは思えない。中山や阪神向きのパワー型だがオープン特別なら京都でも善戦は可能とみた。