アハルテケＳ

ハーツクライ産駒の快進撃が止まらない。断トツ一強の下馬評を覆したオークスのヌーヴォレコルトを皮切りに、育ての親である橋口弘次郎調教師の熱き思いに応えたダービーのワンアンドオンリー、そして世界１位の走りをホームでも示したジャスタウェイ。他にも天皇賞(春)で２着のウインバリアシオンなど圧倒的な存在感で今春のＧ１シリーズを席巻した。

ダービー２着の成績こそあるが有馬記念やドバイシーマクラシックを制しているようにハーツクライの全盛は競走生活の後半。父の成長速度をなぞれば春のクラシック２勝は驚きを隠せないところ。現にデビューからの３世代はクラシックに届かなかった。その状況が激変したのは関係者が配合や育成方法に一定の成功パターンを見出だし始めたからだろう。

ヌーヴォレコルト、ワンアンドオンリーともに早い段階で２勝目をマークした結果、冬場にしっかりと休ませ、ひと呼吸置いてから王道のトライアルで始動できたのは発展途上の肉体的に大変意義があったと思う。３歳戦では芽が出なかったウインバリアシオン、ジャスタウェイあたりは厳寒期の２月にレースを使ったのが成長を妨げる余分な負担だったのだろう。

配合的には欧州の王道系を外したマイラーやアメリカンな母系との相性が非常にいい。ワンアンドオンリーはタイキシャトル×Danzig×Mr. Prospectorで２歳時からダービーはないと踏んでいただけにフジキセキのドリームパスポートが菊花賞で２着した以来の衝撃だったし、ヌーヴォレコルトも母はスピニングワールドのスプリンター。ジャスタウェイのWild Againも典型的な米血統だ。

２歳戦からある程度戦える早熟性や完成度の土壌は母方に任せて、クラシック向きの成長力および総合力を晩成型の父系が担当する。東京での躍進ぶりからは確かなトニービンの鼓動が感じられる。見事なまでの分業制がハーツクライを支えている。そして最後に忘れてはいけないのが身内にいる最大にして最高のライバルだろう。

ディープインパクトの存在があるからこそハーツクライは己の価値を高めていける。そう、現役時代に国内で唯一の土をつけた時のように。市民に権力をふりかざす"王様"が決して傷つけられない"奴隷"。このひっくり返し難い主従関係はもしかすると種牡馬となった今も継続しているのかもしれない。ふとそんな思いもよぎったここ三週間だった。エプソムＣも要注目の一戦だ。

【アハルテケＳ】はフェブラリーＳで本命にしたアドマイヤロイヤルがいる手前、若干の迷いはあるのだが新進気鋭のサトノプライマシーに興味。芝ではスピード不足で新馬の１勝に終わったが、接戦の初ダートを間一髪凌ぎきると以降は砂路線に絞って[4-1-1-1]とりわけ３勝を挙げている東京のマイルは文句なしで得意中の得意コース認定。

前走の薫風Ｓは前半4F46秒7のやや速い流れを好スタートから先行争いに加わる形で追走。控えた３番手で進み、直線も持ったきりで先頭に並びかけると、鞍上の叱咤にしぶとく反応し、長期休養明けを勝利で飾ってみせた。勝ち時計｢1分35秒5｣は同開催のベストウォーリアが勝ったオアシスＳ｢1分35秒8｣を上回っている。しかもベストウォーリアと比べて、上がりは０秒４速い。

つまりはテンよし、中よし、終いよしの競走馬として理想的な資質を秘めている可能性が高い。体質の関係などもあって、順調に使い込めなかった馬だが今回は中１週でのチャレンジ。目立つような気配ではないが大型馬らしく叩いた上積みはしっかりあるはずだ。先行力は大きな武器。有力馬が重ハンデを課されているだけに早めに抜け出してしまえば勝算がある。

格はベストウォーリアだが２週連続で稽古で遅れたのは解せない。57.5キロを背負うだけに命取りになる。アドマイヤロイヤルも決め味が削がれるのは否めない。角居厩舎らしく入念な攻めを施されたエアハリファが対抗一番手。夏場の方が動くツクバコガネオーも調教強化で態勢万全。アメリカンウィナーは重賞４着もある馬だが調整過程から色気はない。