タイキエニグマ

彼に初めて会ったのは週末を東京競馬場で過ごした数年前のある日。
誘導馬として実に柔らかく完歩が大きい常歩をしており、
遠く4階のスタンドからもすぐに判るほどだった。

三木でお世話になることが決まった際、彼がここにいることを知って
とても嬉しかった。この時点では乗ることがあるとは思っていなかった。
しかし先のアクティブバイオに続いて早くも2鞍目に選定され、
馬房へ迎えに行くことに。

かなり警戒心が強いのか、わたしを試すような眼つきで見ている。
無口をかけて曳いていくと、洗蹄所の前で「嫌だ、動かない。」と主張し、
四肢を突っ張って固まってしまう。横へ出しながらなんとか動かして収め、
馬装を始める。鬣がソバージュになっていてお洒落感がある。

馬場へ出て直ぐ騎乗。S指導員によると「三木で二番目に重い馬です。」
とのことだった。発進の脚には反応がよく、体を大きく使った常歩は元気よく、
抑えないとどんどん伸びていく。府中で観たイメージそのままだった。
これが重いお馬だったら他のお馬はどうなんやろ？というほどの素晴らしい動き。

ほどなく軽速歩の号令がかかる。
「あれ？」急に活気がなくなり、瞬時一転の奇芸を演じているかのようだ。
肩鞭を強めに使ってやや動き、歩度を伸ばすために尻にも少し使う。
圧迫はほとんど効かない。こういうことだったのか。（汗）
そういえば確かに誘導馬の速歩は見たことがないな。

こうして彼の初騎乗が終わった。

約一月後、他の騎乗者がなく、広い外馬場のマンツーマンで再び彼と組み、
よく間違えたが複雑な図形運動〜駈歩を指示されて少しやってみた。
なぜかこの騎乗ではよく躓いていた。
写真はこの日のもので、人馬ともたくさん汗をかいた。

彼とはコスモはんがやって来るまでの約半年間、主にコンビを組んでいた。
反撞は大きいもののそこそこ動かせるようになり、長いブランクの後も
再び乗馬をやっていけそうだ、というささやかな安心感を持たせてくれた。

その後のレッスンでは駈歩の組には見かけなくなり、初心者と体験乗馬の
出番が多くなっていたようだった。
遠くから彼を見つける場面は、いつも道の真ん中で動かなくなっている姿だった。