願いに応えてくれた父

数年前に他界した私の父は、筋金入りの競馬ファンでした。あのトキノミノルが勝ったダービーを現地で観たくらいですから。ただいくら好きとは言っても、節度はしっかり守り、楽しむのは自分の小遣いの範囲内と決めていましたね。
さて……私は年少時、南武線沿線に住んでいました。まだ幼稚園児だった私を、父は日曜日に度々連れ出しました。ある時は競馬場、そしてある時は横浜の桜木町へと。どうして同じ所ではなく、日によって違うのか？　幼い私にはわかりませんでした。そう、父は東京開催の日は東京競馬場へ、それ以外の時は横浜の場外馬券場へ行っていたのです。しかし、私がそのことを知ったのは、ずっと後になってからでした。

そんな父の教育（？）もあってか、私も自然に競馬に興味を持ちました。中学生になると本格的に応援する馬ができます。我が家ではスポーツ新聞をとっており、父も出勤日は必ずそれとは別のスポーツ新聞を購入して帰宅します。更に開催日前日の夕方には競馬新聞……と、競馬の情報には事欠かない環境。好きな馬が出走するか否か、容易にチェックできます。あ、まだ学生ですから、馬券は購入しませんでしたよ。
無事成人し社会人になると、父にお願いして私も馬券を買い始めます。ただ買うのは基本好きな馬の単勝千円。たまには複勝も買う時はありましたが。今で言う応援馬券ですね。どんなに大きなレースでも、好きな馬が出ないなら見向きもしない。逆に好きな馬が出るのなら、未勝利戦でも買う。父は「ロマンのある買い方だ」と言ってくれました。
しかし転勤で実家を離れたことを機に、次第に競馬に対する関心が薄れていきます。当時は平成一桁時代。携帯電話も今ほど普及しておらず、インターネットもありません。いつ何処で応援馬が出走するかわからないのです。また、応援馬が勝ちきれないことも影響があったと思われます。結果、私は馬の追っかけをやめてしまいます。
それから二十数年が経過しました。私はYouTubeの動画を見ていた時、ふと思いました。そう言えば昔、白毛馬（日本で最初の白毛馬ハクタイユー）を応援していたことがあったっけ。ちょっと調べてみよう……と。白毛馬で検索をかけると、多くの動画がリストアップされました。そしてここで思わぬことを知ることになるのです。無傷の３連勝で重賞を制覇した白毛馬がいることを。
それがあのソダシでした。こんなに強い白毛馬がいるなんて！　そしてこの時から私はソダシ応援するようになりました。この日は2021年の11月１日。アルテミスステークスの翌日でした。

前置きが随分と長くなりましたが、ここからがタイトルの話となります。それから少したった頃、私は父の写真に話し掛けました。「お父さん、また応援出来る馬ができたよ。ソダシっていうんだ。お父さんがこの馬見たら、何て思うかな。夢でいいから教えてよ」と。
それから更に数ヶ月が経過し、そんなお願いをしたことすらすっかり忘れていたある日。私は夢を見ました。実家の一室で私は父と二人でいました。私は父に話しかけます。「三冠馬って強いの？　コントレイルとか」
しかし父の反応も答えも今ひとつで（何と言っていたかはよく覚えていません）、表情も冴えません。私が「オークス馬だって1億（正確には1億1000万）稼ぐんだから」と言っても（それだけ稼ぐんだから強いでしょ！と言いたい）。
そこで私は更に尋ねます。「じゃ、ソダシは？」　すると父はにこやかに答えます。「ソダシ？　良い馬だな。綺麗な馬だし。ただ、牝馬って感じじゃないな」　私は嬉しくも苦笑しながら「確かに牝馬にしては筋肉質だし」と言うと父は「それもあるが……」などとソダシの性格的なことも指摘していたような気がしますが、ここもよく覚えていません。
と……！　ここで私は目が覚めました。そして暫くして目覚まし時計が鳴りました。危なかった。後数分早く鳴っていたら、父の答えをきけませんでしたから。
そして私は今日の日付のことがふと気になりました。今日は7月14日です。え、もしかして……と起床後カレンダーをチェック。前日の13日は盆迎え火の日。つまり……。
私は考えました。父はちゃんとあちらの世界で私の話をきいていて、こちらの世界へ戻ってきた時に夢に現れたのだと。そして父は私の願いに応えてくれたのだ……と。
何だか出来すぎた話のように思えるかもしれませんが、全て本当の話です。とにかく父に会えて本当に嬉しかった。しかも私の我が儘をきいてくれましたから。母にこのことを話したら「お父さん、あんたに競馬続けて欲しいようなこと言っていたから、嬉しかったんじゃないの」と言っていました。
長々とした話になってしまいましたが、最後まで読んで下さり有り難う御座いました。それではまた。