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2019/07/08 11:31

107

 追いかけられることはどうにもならないと判断し、転ばないようにしながらもなるべく狭い道を通り、こまめに角を曲がって帰り道へ向かう。
車は小回りがきかない。
人はスピードや体力に限りがある。
改めてそれぞれの利点を考える。
 どこかでクラクションが鳴り響いたりしていた。
車同士がぶつかったらしい。

「なんかメモ持ってないか?」

と聞いてみる。

「あるにはあるが……あまり枚数がない」

彼は少し息を切らしながらも淡々と答えた。

「うーん、じゃあやめとく」

「記録したいことでも?」

「ぼくはよく事件について、纏めてるだろ、だから今の状態も新鮮なうちに記録しとこうかと」

ふふ、と彼は笑った。
「鮮度は大事だな」

そして毎日の鍛練も大事だ。
文章を書き続けることは、こうしてちょっとずつ、書く練習が積み重なることで長い文章を書くに耐えられるようになる。
プロがラフスケッチやネタメモ無しで長生きすることはほぼ有り得ないと言っていいだろう。……いやぼくは普通の民間人でしかないけれど。
文章の世界だって同じで、下書きを描く前にさらに下書きやイメージが存在しているのが普通のことだったりする。作家から単なる表面だけを奪おうったって、そうは行かないのは、その鍛練のためだ。もちろん下書き無しでも出来なくはないけど、その場合はもともと基本を積み重ねたからにすぎないし、その他には習作があちこちに存在していたりする。
 ぼくの場合ストレス発散だが、それでもこうしてずるくないくらいに普段からやっていることなので、長文を書く体力がある方だった。
下書きも下書きの下書きも、下書きの下書きの下書きも当たり前にこなしているはずの作家から、攻撃を受けたことがあるのが、尚更に理解できなかったりするくらいには。
「才能、なんて勘違いしたんだろうな……」

「何か言ったか」

「別に。ずるくないことを、みっともなく喚くのは、ずるいなって思ってさ。昔の話」

彼は、不思議そうにぼくを見はしたが、すぐに前方を確認し始める。

まあ、「努力せずに作家になる方法」なんて本や情報すら実存しているくらいなので、誰かにとっての才能がいかに他人にすがりついたものかはよくわかるよな、なんてつらつらと考える。
そうだ、小説家に会う機会があったら、ネタメモを見せてもらうまで信用しないことにしよう。下書きも設定も持たないのに、『創る』なんて言ってたら、それは大半が詐欺だ。
すごい壮大な作品があったなら、付随するような資料集やらなんやらあってもなんら普通のことだから。

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