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2019/06/26 13:31

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 まぁ中に入れば? と言われお言葉に甘えることにした。
玄関は相変わらずの、なんというか、この国の玄関らしい玄関だった。
木の、一枚板みたいなのが、縦になったやつや、シーサーやらが、隅に飾られている。

「コーヒー飲む?」

と聞かれぼくは苦笑いした。
他人からコーヒーと漬け物を薦められたときには、注意が必要だと、昼間学んだばかりである。
「お気遣いなく……」

うっかり頷いて私は喫茶店じゃないわよ!
なんて言われては、かなわない。思えば、この家のなかに入るのは随分と久しぶりだった。
彼はというと、遠慮を知らないのか、それともぼくの事情を知らないのかごく普通に「ありがとうございまーす」なんて言っていたし、おばさんは結局、自身を喫茶店と見なしたとは考えなかった様子である。
ほっとしながら、リビングへと通される。ちなみに「ゆっくりしていけばいいのに」も信じていない。
この辺は、田舎だが、都会の喧騒に疲れた中年くらいの他県の大人がすんでたりするので、いつ誰が何語で話しているかはわからないもので、コミュニケーションには気を遣わねばならない。先週駅前ですれ違ったインド人と、やけに気さくなイタリア人は例外として……
会話と文化はまだ、同じ日本人としては疎通をはかれる望みがある。

 などと一人物思いに耽っている間に、おばさんによってカップに入ったコーヒーが運ばれてきた。なんだかんだでぼくのぶんも置いてある。

「……いただきます」

隣に座る彼はじつに毅然としていた。好かれようが嫌われようがあまり気にしないやつなのだ。今のところ、このおばさんがどこから来たのかはぼくは知らなかった。彼がかつて「僕が思うに城下町のやつはどの田舎でも大体性格が悪いと思う、ま、性格なんか別に興味ないからいいかな」なんて嘘だかほんとだかわからないことを言っていたがもしかしてそのあたりだろうか。
 真相は謎だがプライドっていうか、いろいろとそう見える要素は否定できないよななんて思いつつ、結局この街は、何人が地元民なんだろうとごちゃごちゃ考えているぼくとは違い、

彼は彼女と談笑している。
……おばさんは、お菓子をもってこようとしている。

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