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2019/06/18 12:04

86

――女のフリ?
ぼくは、言ってはなんだが、人間にさして興味がないので、今の今まで、男が泣きわめくまでは気がつかなかった。

「……なぁ、絵鈴唯」

ぼくは彼を呼んだ。
ずいぶん久々に。

「なんだ」

「これ誰?」

「誰だろうね、少なくとも、あの家に来ていたヤツだろ」

彼は特に驚きもせず、ただ、肩をすくめていた。

「――え?」

「ま。いつも輪の方から逃げていく。入る入らないは、輪に接触できる人間だからこそ言うこと。それが真相」

なつかしい台詞をなぞりながら、彼は男――しゃがみこみ泣きじゃくる女装を指差した。


「――ちなみに茶会というのは、教室の人たちの集まりですね、ときいたとき、彼女は
『えぇ、そうです! そうでなく友人をここに招いたのはあなたたちで久しぶりです』と言った。彼女は少なくとも、薬指に指輪はつけてないし、お揃いの皿やカップを買うという風習のところもあるが、それらも見当たらない。
 もちろん物だけでは判断出来ないが、いくら彼のような見た目でも結婚していればそう易々と部屋に男性を入れないで、玄関先くらいという場合も珍しくないのだが、それにしたって、どこか、異性との会話に慣れている部分があると思わなかったか? いや、意識しない、という風が正しいか。
あれだけ、マエノスベテが縛っていたのに」

つまり。

「『ぼくたちに 接触しようという発想自体』が、おかしい」

「いつ、気づいた?」

「『事件のこともある』からな。この街を支配する、宗教団体、そして櫻さんを、避けて通ることは海外にでも居なきゃ出来やしない。
ウシさんですら警戒していた。笑顔ではあったが、あれは、社交辞令。
しかし少しも怖がらない様子を見せるのは、根拠となり得るそれ以上の怯えるものを知っているのは、彼女くらいだった。
僕を訪ねることができた、その発想を当然のように抱いた最初から変だと思った。
そのあとあの彼が来るわけだが――」

ある意味の密室、しかし、彼女はぼくらに怯えもしない。
女子同士のような、気兼ね無さ。

「待ってくれ、その前に、こいつ、本当に――」

「団体とか、事件の背景はあんなんに会えば今更な度胸はつくだろうから怖がらんだろう。
しかし彼女は、今でもマエノスベテには取り乱すのに、
ぼくらを招き入れる躊躇はしない。恋人でもなくて、茶会にも居ない。でも、マエノスベテが、怒らないで、家に出入りできる存在、簡単に言えば『男』が居たと疑った」

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