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2019/06/17 16:41

83

「あ、見てください、あれ可愛い」
彼女は、そんな憂鬱さを吹き飛ばすかのように、ぼくにショップの洋服が飾られる区画を示す。着飾ったままに微動だにしない白い肌の女性や男性がわらわらと並んでいた。
ぼくの胸中を悟られたかと一瞬焦ったが、彼女はただただ、素敵な服ですねと言った。

生きている相手よりも、固まってそこに在る相手がタイプだというのは、なかなかこういうときに妙な罪悪感があるなと思うが、まあ、仕方のないことだ。昔、片想いの相手を「現実見てよ」とぶっ壊しやがった女が居たなと余計なことまで思い出してしまった。
あれだから、生きてる奴の好意ってのは迷惑で好かないが、この今の距離感で、居る他人にたいしては比較的穏やかだ。

そういう服が好きなのか、だとかに話題を移しつつも、映画館のある棟へと向かう。
途中の道にある区画は、ダンスダンスがレボリューションしてる人たちで賑わっていた。
もう身体の動きがどうなってんのかわからない。
新たな革命が生まれるのかは知る由もないが、だんだん薄暗くなっていく道筋で響く、ズンズンとした振動はなんだか今のぼくの気分と相反し、憂鬱だった。
彼、は比較的早く見つかったので少し拍子抜けしつつも安堵した。
「おーい、見つかったか?」

と、話しかけにいこうとしたがしかしそれは出来なかった。
目の前に、そう、彼よりも先に目の前に急に人が現れたのだ。彼女が目を離した隙にぼくの腕を掴み、ソイツはどこかへとこの身体を連行しようとする。

「……あのー」

見下すような視線をした、少しふくよかな男性。
ただ、ぼくより背が低く、あまり見下された気分にはならない。
「なにか?」

「いえ、何でも?」

彼は、何でもと言って、ぼくの手を離す。何かがあるかではなくて、あってもお前に関係ないということらしいが、だったら、なぜ?
振り向くと、彼女は居なくなっていた。
「あぁ……」

「人違いみたいでーす、しつれいします」

こいつらよく人違いするなぁ。なんて呆れて睨んでいたら、「なにか物欲しそうだな」と言われた。

「物干し竿なら、わりと、頻繁に金物屋が通りますよ」

「コーヒーでも飲む?」

「は、はぁ……じゃあ」

断るのも面倒なので適当に相づちを打つと、大きなため息。

「俺を、喫茶店かなんかと勘違いしてるんじゃね?」

「……」

面倒だ。

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