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2019/06/13 21:44

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「さてと――何か気になるものはあるかな?」

 彼は、彼女とパンフレットを見に行く。
彼女はガクガクと機械のように頷いて居たが、意図はわからない。くまさんの腕は少し強めに握られていた。
問いかけが辛いのかもしれないと判断してぼくが間に入る。

「あれとかどう?」

今流行っているアニメのポスターを指差す。

「あまり話を知らない」

彼は淡々と答える。
彼女は首を横に振った。

「ごめんなさい……私」

――不安と恐怖の心理状態で、明るく賑やかなアニメなどとても観てられないよ。
持たないね。
こりゃ集中力が、かなり、短くなってしまっている。

間から答えたのはくまさんだった。ぼくがそれとなく、映画である必要を聞いてみる。

「いやまあ、映画でなくても良いといえばいいんだが」

彼は、うーむ、と考えるように唸った。

「そうか、その点を考慮していなかった。疲れているなら、尚更余計な負担がかからない方が良いね」

無理をしてもその後がよくない。きっとその日の自己嫌悪を欠陥として背負ってしまうだろう。
感情が壊れて中身がなくなって、しかしそれを他人からは有る当然のものとして接せられる、その空虚なもどかしく絶望的な感覚をぼくは理解していた。
つるつると滑る板の上を歩かされるように、進もうとするたびにもとの場所に戻り続け狂っていくような、一人だけ無重力で地面に張り付くことができないのを周りから白い目で見られているなかで足を必死に伸ばすような、心に穴が開いて広がり続けるようなあの感覚は、なかなか味わいたいものではない。
とにかく待ち合わせはできたのは事実なので、よしと捉え、ぼくらは下にあるカフェに向かうことにした。

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