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2019/06/09 00:06

70

 ま……しょうがないか。
壁を蹴ってコンクリートの屋根に飛び移る。
あっという間に、街が少し見下ろせるようになった。
「ふいー、到着」

 元気が有り余っていた頃、ぼくは今ではスポーツにもなってる、屋根を伝いビルとビルの間を飛び回る遊びを、趣味の範囲でやっていた。死なない高さの飛び降りや移動はぼくにはリストカットよりも気軽な自傷。
彼もやがて少しぎこちなく後を追ってきた。

「本当きみは、身軽だね」

「褒めてもなにも出ないよ、さて、靴紐は結んである? ポケットの中に飛び出そうなものが無い? 裾は平気か?」

 いつもの癖の確認をするぼくに彼は平気だと言った。

前方のコースは極めて初心者向けの高さでさほど距離に不安はなさそうだ。僅かな水溜まりがあるがあの範囲なら支障がないだろう。下を見る。
今のところ、人は居ない。まずぼくが先に跳んだ。
下を見る。
前方、少し進んだ先で車の配置が始まっているが、まだ後方に至ってはぼくらを見失い追い付いてないみたいだ。
ちょうどここから右に二つ曲がって隣のビルから降りると、ほぼ人が待機していない、店の駐車場がある。

ぼくは彼に小さく合図しながら、先へ進んだ。
やがて彼も後を追ってくる。
なんだか、懐かしいななんて思った。身体が風になったみたいだ、なんだか自由になったみたい。それはほんの束の間だけど。

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