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2019/06/02 23:43

62

 店から出ながら、彼はぼくに謝ったが、ぼくはぼくで彼とでも居なければこういったところに寄らなかったと思うことや、新たな経験になったということを告げた。

「殺人犯と同じ席と言われているよりは、マシな気分だよ」

彼は、じっとぼくを見て、少し悲しそうな目になった。

「あれは、きみが、殺したわけじゃないだろう」

「櫻さんは、ぼくが殺したと言った。ぼくは、殺したんだよ」

帽子がちゃんとかぶれているか確認しながら、息を吐き出す。 近所に住む櫻さんという作家をしている女性の父親を――ぼくは殺している。
もっとも、それは短くまとめた結果であるのだけれど。

 今ぼくの隣に居る彼の巻き込まれた誘拐事件と、何か繋がりを持っているある組織と関わっていたのが、その父親だった。この街は、その櫻さんたちが多くの土地を持っていたから、それからはあちこちから恨まれている。ずっと。

「逃げ出した、だけじゃないか、それに」

「君がわかってくれるならいいさ。でも、今の、この現状は、みんなぼくを避けているじゃない?そういうことなんだよ」


正義とか悪とかじゃない、何か。事実は事実。どうにもならないだろう。

「謎が、解けなきゃ、もっと多くの人間が殺されていた。僕も、死んでいたかもしれない、僕は、正直櫻さんがきみをどう言おうと別に構わない」

「なんでそんなに、必死に言うんだ?」

彼がやけに困った顔になるのでぼくは逆に、穏やかに笑った。
「どんな理由でも、誰かは死ぬよ」

櫻さんの声を、微かに思い出す。なにを、言ったかまでは、よくわからなかった。
ぼくは、ただネタにされているどころか、櫻さんには執拗にネタにされているのだが、これもこの憎悪が背景にあるみたいだ。少し前に見かけた彼女は、父親殺しの主人公の話を描いていた。

「櫻さんの恨みは相当なものなんだ。だからこそぼくを常に描かなければ、昇華出来ないという凄まじい暗示にかかっている。もはや自分の意思では止めることが出来ない。
出版社側も、それを黙認しているしかない状態なんだと思うよ」

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