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2019/05/29 20:23

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    ■

 その部屋は荒れていた。
どうにか元の家具の配置は想定出来るが、服や小物が散乱していた。勝手ながら二階の一室のドアを開けたとき、ウシさんと彼女が何やら向かい合って話をしていたようだったが、彼女の方は、魂が抜けたようにぼんやりとしている。

「人を好きになるなんて誰にでも出来る、簡単なことなのに……コストパフォーマンスで選んで恋愛から逃げてるだけよね?
でも実際こういうものはね、不利益も付き物なの、綺麗事じゃないのよ。
どうしてあなたはいつも逃げるの? そうやって逃げて失礼だと思わない? こんな簡単なことから」

彼女は聞いているのか居ないのか、ただ、ぼーっと頷くのみだった。

「もう、やめてください」

部外者の癖にだが、思わず部屋に飛び出していた。

「それは間違っています。
誰でも出来ることじゃありませんよ、人なんか好きになる方が難しいんです。ぼくだって、そうですから」

「いきなり入ってきて、なんですか」

ウシさんは驚いてはいたが、騒いだからと少し予想できていたのか、案外に冷静だった。

「たまたまあなたに簡単だっただけのことで、追い詰めても何も特はしません。
それに誰でも出来るなんて言葉を使うのは、恵まれた富裕層だけです」

「ハハハ。あなただって、居るじゃありませんか」

ウシさんは、急に高い声で笑った。ぼくの後ろ、を見て。

「…………」

ぼくが、なんとも言えない表情のまま、彼を見ると、彼は項垂れたまま「またかぁ……!二回目かぁ」と嘆いていた。

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