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2019/05/14 10:49
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頭が真っ白になった彼女にはそれすら意味を為さなかった。床に座り込んで叫ぶ。
「許して……許してください! どうか、どうか許して。私、愛されなくていいんです、そんなもの要らない、小さいかもしれないけど代わりに土地を買えるように頑張るから、だから、恋だとか、フリンダとか、もう見たくない、聞きたくないです、ごめんなさい」
「あなたに出来るのは、愛想よく笑うことです。身を粉にするより早いじゃない。どうしてそんな不必要な苦労をさせる必要があるの、挨拶ができれば済む話でしょうに――あーぁ、あきれた」
ウシさんはウシさんで、大袈裟にため息をついて呆れて見せた。
「滅多にないことよ? わかる? 滅多にないのこんな縁談は!そう、もとはといえば、あなたが愛想よくし続ければ何もかもが平和に営まれる、あなたは考えようによってはそれだけの、恵まれた、とても、妬ましい、そういう立場よ、周りからしたらぶん殴ってやりたい」
ぶん殴りたそうに、本当に拳に力をいれて握りしめた。
「私がもーぅちょっと若かったらねえ! 本当、愛想笑いも挨拶も出来ない、お人形さんなんかに引っ掛かってあー、可哀想な旦那様よ」
彼、が動いた。
目の前に出てぐっと腕を掴んだ。
――彼女ではなく、ぼくの。
「え?」
「だめだよ」
何が、と聞こうとしたけれど、彼は何も答えず、代わりに「ここは任せて一旦顔を洗って来るといい、かな」
と、耳打ちしたのみだったので理由はわからないながらに、ぼくもそうすることにした。
今この場に居るのもいたたまれないとは思っていたところだったからだ。
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