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2019/05/14 09:15

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「貴方、いつもそう一番失礼だと思わない? あなたが言う『前野』さんの名前も覚えず、逆らって、決めつけて」

 ウシさんの攻撃が再び始まる。彼女はピタリと身体を硬直させた。

「あの人は偉い人なの!
あなたが愛想しておけば山のことくらいもっとどうにかなるはず、みんな思ってるわ。ね、簡単でしょう!」

「私には、向いていません」

彼女は、血の気が引くような、少し白い顔になっていた。
想い、を受け止めるというのは本当に理解し難く恐ろしいことなのだろう。

(向いてないのに、しなくちゃならないんです)

「あなたがちゃんとしてくださらないから、他の女がスッと持っていくわ。私、少し前に買い物の途中見たのよ、角のとこにあるラーメン屋に彼と女が居たの! あなたがふらふらしてるからじゃない? 山の危機もあるのに、あなたが近くに居て、どうしてこんなことが起きたんでしょうね」

 少し待っててくれといったウシさんは、一度部屋に戻り、すぐに写真を持ってきた。
ウシさんが来るまでの間皆、何を言えばいいかわからず、黙ったまま固まったままだった。

「あなたが、だらしないから起きたのよ、わかる? 挨拶されたら挨拶を返す、誤解されるようなことはしない、会ったときねあなたがかまってくれないからだとおっしゃっていたわ、あなたはつまらないと」

「ぁ……あ」

 彼女はこのとき、何か言おうとするも言えないという風に、ただ無表情で口を開閉させただけだったが、軟禁と暴力でしかないような日々を思い出すと同時にそれすらやりこなせない自分を批難されることに思考が固まっていたと後に語った。

頭が真っ白になるくらいのパニックと、それを受け入れるしかないことが出来上がった残酷な空間は、すでに近所の人を見てもわかる有り様だ。

(背中を押して居た……)

 やはり彼が恋愛の熟練者であるならそういった同じような相手と居るのが最もふさわしいのだが、出来ないことを強引にさせるという優越感だったのかもしれない。
いい趣味とは言えないが、他人がわからないことを知っていること自体は誰しもあるものである。
わからないのが悪い、わからなくてもかまわないから先に行くそれは残念ながらシビアな現実としては正しい。

まあこれも理解力の差だった場合と、認識や体質による差だった場合では意味合いが違うのだが。

「あの、私……」

彼女は狼狽えたままぼくらを見た。別にふしだらという風な誤解はしていないので、大丈夫だという意味で真面目な顔を見せるにつとめた。

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  • パニック
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