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2019/04/30 00:04

36

 ドアを開けたものの、その先に居たご近所さんは、生け贄待ってましたとでも言わんばかりの笑顔で彼女の背を押し、マエノスベテへ差し出そうとした。
「いやいや、お待ちかねですよ」
喧しいと言っていたときのキツさはどこへやら、それはとても柔らかなふるまいだった。
彼女は逃げる術も無いため、そのまま部屋から出される他はなかった。
いいのかいと、彼、へ聞くとだからといって事情もわからないので入りようがないと言った。ぼくも、特に事情を知るわけではないが他人を見るたびにウワキダ、フリンダと騒ぎ立てる精神の持ち主なだけに、下手に接触していいのかと少し迷ってしまった。

「なにか、用事ですか、あなたは出ていったはずです」

「出ていった? ううん、あのときはカッとなっただけなんだ。悪いことしちゃったなぁ」

男はやけににこにこして彼女に歩み寄った。


「ほんとかよ……」

後ろ、玄関の中から見守りながらぼそっとぼくが言い、彼は、あの包囲網で言われるとなあ、と苦笑いを返す。

「ごめん、きみを愛してる」

「そう。さよなら、それと」

 彼女は何からどう突っ込もうか2秒ほど迷ったようだったが別れを述べて、ついでになにか続けようとした。
彼が少しむきになったときだった。
誰が呼んだのか、奥の道から赤いランプをつけた車が走ってきた。

「うわっ、また来る」

そうして彼は慌てて仲間たちと撤退した。

「お騒がせしました」

彼女はそうことわると、なるべくさっさと家へ戻って来た。
どうにか今は距離を置いている状態だが、しかしこの囲い込みはあまり変わらないらしい。

「私が心配だと言いますが、今思うと彼は、もう少し別の心配からすべきだと思います」

「なんというか、遠いところからもわかる、すごい人だな」

「えぇ。エレイさんも思いましたか」

「彼とは何か、暴力沙汰があったような感じがするね」

「まるで見てきたようなことを言うんですね」

「なんとなく、そんな雰囲気があるというのかな、言ってもわからないと思うよ」

「そうですか……まぁ、そのようなものです」

ぼくにしたのと同じような話の概要を彼女は軽く彼に語った。
「私は、私が何も知らないからだと自分を責めていましたし、近所からも、慰めよりも、その倍、バカだと言われました」

「確かに漫画や動画などを見たって、不倫、浮気、と用語説明がされるわけでもない。知っている人向けのコンテンツだ。
僕もたまに、浮気や不倫がなんのことかわからないときがあるし、ああいうのは話し半分くらいにしか見ていないよ。
しかし目が合い会話をするだけであらゆるものが許せないというのは、異常、やり過ぎだな」

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  • リンダ
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