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2019/04/29 23:34

35

 マエノスベテが居る空気を察してか、彼女はその場に出て行かなかった。
それで余計にマエノスベテは怒った。

「居るんだろう! なあ、いるんだろ!!」

しばらく叫ぶ間、ぼくと彼がどかずに居ると舌打ちしてドアを強く閉めていったが、なんだったんだという話になりかけたところでブォオオオン! と激しい爆音!が聞こえてきた。

「どうやら前時代のなかにいるらしい」
彼は肩を竦めて、近くの小窓を覗きに行くのでぼくもついていく。そのときになって彼女も我に返りぼくらの後ろから窓を見た。
バイクに乗った5、6人が、家を包囲していた。

「出てこい! 出てこないと恥ずかしい写真でもなんでもやってばらまくからな」

 そんなことを叫ぶのはどうなのかという点についてはこの際触れないで置くが、これは一体、どういうことなのだろう。
彼女は出ていくかどうか少し迷っているようだった。

「な、なんて茶番……」
彼、は呆れたようにため息を吐く。
彼女は悲痛そうな顔で呟いた。
「彼、が孤独な理由と、ウチに転がり込んできた理由のひとつはこれだったのです」

 そういえば、マエノスベテについてぼくらは特に細かくは聞かされていなかったことを思い出した。出てくるまで集団で包囲する発想はまるで犯罪者の扱いだ。

「逆に出ていきにくいな、これは」

一人ならともかく、そもそも他のは誰だ。
出てこないことに腹を立てているマエノスベテは、手にしていた拡声器を口に当てた。

「おーい! お嬢さんやー! 死んじまったかい?」

程なく、玄関のチャイムが鳴らされる。

「ウシさん! うるさいですよ、またアンタんとこのツレさんが騒いどります」

ウシさんは、二階からばたばた降りてくると廊下に立ち尽くす彼女を見てじっと睨んだ。
あんた、なんとかしなさい、という無言の威圧だ。

「う……」

彼女は「嫌だな、出ていきたくない」という表情だったが、近所からもお前が止めろと訴えが来て、部屋からもこれなので、とうとうドアを開けた。

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