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2019/04/22 21:00
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その頃にはいつしか浮気を忘れてしまっていた。
陽気に振る舞うと、《彼》がウワキダかフリンカ、フリンダと間違えてしまうのだから。
たぶん彼女らはそんな性格の人だったのだろう。
ただ家事に徹する機械のように、ウワキダやフリンカやフリンダとしか呼ばれない自分の名も、もう忘れていきそうだった。
《彼》は特に私に来客があるときに集中して、名前を間違えた。不安なのか焦りなのかわからないが、動転して過去の記憶が混ざってしまうのだろう。
「この、フリン!」
怒りが頂点に達した彼は、それでもまたついに、知らない愛称で呼んだ。
「フリンじゃ、ないです!」
「ダッタラウワキダ!!」
ウワキダさんのフルネームだろうか。
マトリョシカのように、マトリョちゃんなのだろうか?
ダッタラ、ダッタラ!
彼はとても真面目に訴えていたが、私にはやはり意味が通じていなかった。
《この部分》の話になると、いつも恐怖を感じてしまう。
せめて、言葉が通じれば良いのだが、わけもわからず、そしてわからないことすらも認めてもらえないことがとても悲しいことだ。
そうなれば無心のまま壁に釘付けられてしまったドライフラワーを眺めて、興奮が収まるのを待つのみだった。
目を閉じていると、脳裏に浮かんでくる。
――フリンダ!
私は……
私はフリンダではないのです。
――バカにしてんのかウワキダ! ウワキダ、わかってくれよ!! 意味がわからないなんて、とぼけるなよ!
何を怒るのでしょうか。
私はいつも、ただ他人と話すだけだというのに。
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