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2019/03/30 21:19

16

 どうにか話題を前向きにしようと頭を捻るがぐるぐると脳裏で巡る疑問が先に口をついて出た。
「確かにノートはいつも見せているけど、転んだかどうしてわかるんだ? それは二つ上の階の教室のことだ。目撃者も居なかった」

彼はじろりとぼくを見たあとで、制服のズボンの膝が汚れていることや、手首がわずかに擦りむけていること、それから……と髪に手を伸ばして、頭についていたらしい綿埃をとった。

「午前の授業のとき僕は下に居たんだけど。保健室で誰かが絆創膏をもらうのを見た。カーテン越しだから声だけだけどね」

「なんだ、そっちに居たのか」

 埃に気がついていなかったことなどとあわせてなんだか気恥ずかしい気もちになった。

「あの様子だと軽傷っぽかったけど、なにかボンヤリしてたのかな」

「委員会の件だよ。あと、しつこい好意から逃げていたんだ」

またか、と彼は楽しそうに笑った。

「ぼくは、好きな『相手』が居る。人間なんかにかまってられないんだ!」

生きている『人間』ではなく、もともとぼくは、『そうでない』相手に興味があるのに。
なぜか『あいつら』、ぼくに構おうとする。

「クラスメイトが泣くぞ」

唯一気の許せる仲だった彼は、とても愉快に言う。

「別にいいよ」

他人が大嫌いだ。
ただでさえ。
そして年を増すごとに嫌いになっていく。
 頭にあるこの『耳』の名残もケモミミとか言って世間が流行らせたおかげで、間接的とはいえ僕は世間の晒し者。

息苦しい学校生活をしなくちゃならないというのを、近所の作家に言いにいったことがある。彼は『それをネタにした本を発売』した。

 それからは酷いもので、周囲からは、まるで僕が難癖をつけた悪者のようになってしまっていた。

ケモミミくらいで!
とまで作家のファンが部屋のそばに嫌がらせに来たりしたのだ。
 生まれついての悩みまで「くらいで」とまで、言いに来られるきっかけになるような『物』に、当事者が救われることはないだろうし、
『コピペ作家なんか死ねばいいのに!』とぼくはよく口にしている。

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