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2019/03/29 17:55

14

 それ、は意識を始めると次第に悪化していた。
とうとう、何か言わないのかと言ったぼくに、美術準備室に居た彼は机の上の板にある粘土を何かの形にこねていきながらくすりと笑いつつ答えた。

「いつも輪の方から逃げていく。入る入らないは、輪に接触できる人間だからこそ言うこと。それが真相」

何か言おうと無駄だとわかっていたなんて、そんなことが、あるだろうか?

「やってみなきゃわからないなんてのは、やってもわからないやつの台詞だよ、実際やらずにも見たらわかることはたくさんあるんだ。
例えばほら。きみは今から僕に説教をするついでに、ノートをわざわざ見せに来つつ、委員会会議に出るために確認しなくちゃならないことがあるから相談しようとしていて、ついでにきみはさっきそこで転んだね」


その通りだったから、ぼくは口を開いて固まった。

「きみが手に持っているプリントは、今日の授業進度とはなんら関係がない。小テストのやつとも紙が違う。
ここの先生は企画や保存用以外は大抵が文字通りの再生紙だ。企業から来る試験の紙や、何か細かい用事のものは少しいい紙だけど、このサイズのコピー用紙は試験用には滅多に使って来ない。それに君がわざわざそうやって鞄から出したままやって来たのがなによりの証拠だよ。テストなら畳んで隠すだろうからね」

手にしていたプリントを、彼がひょいっとぼくの手から受けとる。
「うん、少しいい紙だ。いつものより30円くらい高いな」

「音海先輩が、家の紙から作ってきたらしい」

「なるほど」

「でも、生活指導の先生を中心に女子に厳しくなってるみたいだ。彼女は今、なんかよくわからない先生の主張で反省させられているよ。女子たちが群れてることが規律をなんとかどうとか。服装がどうとか。
今ちょっとした戦争さ。
折り合いがついてないから
今回
『代わりに男に行かせろ!』とさ」

「やれやれ」

彼は伸ばした髪をクリップでまとめて、大きくのびをした。

「大バカの筆頭が男だから、あまり迫力ないな」

「君が言うと、どの方面の味方なのかもわからない」

「僕に敵や味方はないね」


木の形をしていた粘土がぐにゃりと歪み、あっという間に、泥から沸き上がる腕の形になる。

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