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2019/02/14 22:19
アンパンマンの歴史 2
2代目アンパンマン
1973年に出版された『アリスのさくらんぼ』(サンリオ出版)に収録された「飛べ!アンパンマン」。茶こげたボロボロの継ぎはぎマントに身を包み、「アンパンの頭」をもった正義の味方、「アンパンマン」。
【2代目アンパンマンストーリー簡略】
主人公は、ヤルセナカスという、売れない青年漫画家。
青年は、アンパンマンという漫画の企画を編集者に持ち込むものの、こんなみっともない主人公では受けませんよ、と却下され、さらに、エロも欲しいし、怪獣も出ないんじゃねえ、売れないのは悪です、とまで言われます。
そのアンパンマンとは、主人公が、おなかがすいて倒れそうになっている時に現れた、不格好なヒーロー。
アンパンでできた顔を、青年に差し出します。
“さあ、おれのほっぺたを すこしかじれよ えんりょするな ガブリといけ”
顔が欠けてしまったアンパンマンは、弱って、よたよたと飛び去ります。
以上
献身と愛、「自らが傷つくことなしに正義はなしえない」というやなせさんが考える本当の正義が初めて作品として描かれたものです。
ちなみに、この絵本のアンパンマンは、現在のように顔の一部がなくなっても取り換えることができるのではなく、顔の全てがすっかり食べ尽くされることで、ようやく新しい顔を得ることが出来るようです。食べ物をありがたくいただくという理念が伝わります。
文化人類学者の出口顕氏は、これを「自らの死と引き換えに、または命を賭けてその一部を与えて他者の命を救う、臓器ドナーと同様のことを実践している」と読み、このことが、傷つくことなしには正義は行えないという、やなせ氏の主張であり、アンパンマンのエッセンスだと解釈しています。
そして、この童話を子ども向けの絵本にする企画が持ち上がり、
同年『キンダーおはなしえほん』(フレーベル館)に「あんぱんまん」が掲載されます。
やなせたかし 『あんぱんまん』(キンダーおはなしえほん)フレーベル館刊 -あとがき-より
「子どもたちとおんなじに、ぼくもスーパーマンや仮面ものが大好きなのですが、いつもふしぎにおもうのは、大格闘しても着ているものが破れないし汚れない、だれのためにたたかっているのか、よくわからないということです。
ほんとうの正義というものは、けっしてかっこうのいいものではないし、そして、そのためにかならず自分も深く傷つくものです。そしてそういう捨身、献身の心なくしては正義は行えませんし、また、私たちが現在、ほんとうに困っていることといえば物価高や、公害、飢えということで、正義の超人はそのためにこそ、たたかわねばならないのです。
あんぱんまんは、やけこげだらけのボロボロの、こげ茶色のマントを着て、ひっそりと、はずかしそうに登場します。自分を食べさせることによって、飢える人を救います。それでも顔は、気楽そうに笑っているのです。
さて、こんな、あんぱんまんを子どもたちは、好きになってくれるでしょうか。それとも、やはり、テレビの人気者のほうがいいですか。」
やなせたかし『アンパンマンの遺書』岩波書店刊 -三つの出発点-より
「この最初の絵本で、ぼくが描きたかったのは、顔を食べさせて、顔がなくなってしまったアンパンマンが空を飛ぶところだ。顔がないということは、無名ということ。ボオ氏(*)と考え方は同じである。
顔パスというのがある。この世界は顔で通用するところがある。政治家もそうだし、タレントもそうだ。自分の顔を売ってそれで生活する。顔売り商売である。プライバシーがないと騒ぐのは間違っている。顔を売った以上はプライバシーは失う。覚悟しなくてはいけない。
普通の人は無名である。顔は知られていない。
顔がなくなってしまったアンパンマンは、エネルギーを失って失速する。この部分が描きたかったのだ。」
*ボオ氏 「Mr.BO ボオ(氏)」サンリオ刊 やなせたかし1967年の作品 週刊朝日漫画賞を受賞した4コマ漫画集。