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21件のひとこと日記があります。

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2016/10/15 00:00

ハイセイコー

中学時代夢中になった寺山修司

詩の中出てくる1節
壁にぶつかった時のおまじないのように心で唱えた
「振り向くな 振り向くな 後ろには夢がない」

その時は気付かなかったのか、知らないから忘れてしまったのか

久しぶりに全部読もうと開いて見て驚いた
タイトルは「さらばハイセイコー

ハイセイコーの詩だったのです

とても長いのですが、お時間ある方は読んで下さい
深いです、深くて私にはまだ半分も理解出来てはいないのかもしれません

*************

ふりむくと
一人の少年工が立っている
彼はハイセイコーが勝つたび
うれしくて
カレーライスを三杯も食べた


ふりむくと
一人の失業者が立っている
彼はハイセイコーの馬券の配当で
病気の妻に
手鏡を買ってやった


ふりむくと
一人の車椅子の少女がいる
彼女はテレビのハイセイコーを見て
走ることの美しさを知った


ふりむくと
一人の酒場の女が立っている
彼女は五月二十七日のダービーの夜に
男に捨てられた


ふりむくと
一人の親不孝な運転手が立っている
彼はハイセイコーの配当で
おふくろをハワイへ
連れていってやると言いながら
とうとう約束を果たすことができなかった


ふりむくと
一人の人妻が立っている
彼女は夫にかくれて
ハイセイコーの馬券を買ったことが
立った一度の不貞なのだった


ふりむくと
一人のピアニストが立っている
彼はハイセイコーの生まれた三月六日に
自動車事故にあって
失明した


ふりむくと
一人の出前持ちが立っている
彼は生まれて始めてもらった月給で
ハイセイコーの写真を撮るために
カメラを買った


ふりむくと
大都会の師走の風の中に
まだ一度も新聞に名前の出たことのない
百万人のファンが立っている
人生の大レースに
自分の出番を待っている彼らの
一番うしろから
せめて手を振って
別れのあいさつを送ってやろう
ハイセイコー
おまえのいなくなった広い師走の競馬場に
希望だけが取り残されて
風に吹かれているのだ




ふりむくと
一人の馬手が立っている
彼は馬小屋のワラを片付けながら
昔 世話したハイセイコーのことを
思い出している


ふりむくと
一人の非行少年が立っている
彼は少年院の檻の中で
ハイセイコーの強かった日のことを
みんなに話してやっている


ふりむくと
一人の四回戦ボーイが立っている
彼は一番強い馬は
ハイセイコーだと信じ
サンドバックにその写真を貼って
たたきつづけた


ふりむくと
一人のミス・トルコが立っている
彼女はハイセイコーの馬券の配当金で
新しいハンドバックを買って
ハイセイコーとネームを入れた


ふりむくと
一人の老人が立っている
彼はハイセイコーの馬券を買ってはずれ
やけ酒を飲んで
終電車の中で眠ってしまった


ふりむくと
一人の受験生が立っている
彼はハイセイコーから
挫折のない人生はないと
教えられた


ふりむくと
一人の騎手が立っている
かつてハイセイコーとともにレースに出走し
敗れて暗い日曜日の夜を
家族と口もきかずに過ごした


ふりむくと
一人の新聞売り子が立っている
彼の机のひき出しには
ハイセイコーのはずれ馬券が
今も入っている




もう誰も振り向く者はないだろう
うしろには暗い馬小屋があるだけで
そこにハイセイコー
もういないのだから




ふりむくな
ふりむくな
後ろには夢がない
ハイセイコーがいなくなっても
全てのレースが終わるわけじゃない
人生という名の競馬場には
次のレースをまちかまえている百万頭の
名もないハイセイコーの群れが
朝焼けの中で
追い切りをしている地響きが聞こえてくる




思い切ることにしよう
ハイセイコー
ただ数枚の馬券にすぎなかった
ハイセイコー
ただひとレースの思い出にすぎなかった
ハイセイコー
ただ三年間の連続ドラマにすぎなかった
ハイセイコーはむなしかったある日々の
代償にすぎなかったのだと




だが忘れようとしても
眼を閉じると
あの日のレースが見えてくる
耳をふさぐと
あの日の喝采の音が
聞こえてくるのだ

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  • 下町ビスケットさんがファイト!と言っています。

    2016/10/17 17:57 ブロック

  • 下町ビスケットさんがいいね!と言っています。

    2016/10/17 17:57 ブロック

  • 下町ビスケットさん

    紙さん、寺山さん競馬大好きでしたね。
    グリーンチャンネルで特集拝見しましたよ。
    ハイセイコー無論産まれる前です。37歳なので、1973年皐月ハイセイコー優勝はVTRや本のみ。増沢末夫騎手のさらばハイセイコーと言う曲もありましたね。
    ふりむくな、ふりむくな、前を見ろ。
    自分に言い聞かせてみました。今。
    ありがとうございます。勉強になりました。
    ハイセイコー。



    2016/10/17 17:57 ブロック

  • 紙ふうせんさん

    シップのシッポさん、コメントありがとうございます(^-^)

    本当にそうですね
    きっと重賞馬もそうでない未勝利で消えていってしまった子にも、それぞれに見えない場所でドラマが生まれているのかもしれません
    そしてその人それぞれに大切な物をもらっているのかもしれません

    馬は本当に人に色んなことを教えてくれる気がします

    追伸、ホクトベガの詩もありました(^-^)

    2016/10/15 23:38 ブロック

  • 紙ふうせんさん

    一直線さん、コメントありがとうございます(^-^)
    寒立馬、雪の中にじっと立たす姿は心を引き付けますね
    是非行った際はお話を聞かせていただきたいです!
    寺山修司は競走馬を持っていたんですよね。もう一度違う角度から読み返してみたいと思います。新たな発見があるかもしれませんね(^-^)

    2016/10/15 23:33 ブロック

  • 紙ふうせんさん

    ハープ星さん、いいね!ありがとうございます(^-^)
    今まで気付かなかったのが、恥ずかしい(笑)
    競走馬の詩を数多く残しているので、競馬の知識が増えた今読み返したら、また違う見方が出来るかもしれませんね(´∇`)

    2016/10/15 23:29 ブロック

  • 紙ふうせんさん

    フローラさん、いいね!ありがとうございます(^-^)
    寺山修司は競走馬との縁が深かったようで、数多くの作品を残しているので、また読み返してみようと思っています(^-^)

    2016/10/15 23:27 ブロック

  • 紙ふうせんさん

    のこみゆきさん、初めまして。そしてコメントありがとうございます(^-^)
    本当にその通りですね。目の前に昭和が広がっていきます
    読めば読むほど、深い詩だなと思います。

    2016/10/15 23:25 ブロック

  • シップのシッポさんがいいね!と言っています。

    2016/10/15 22:29 ブロック

  • シップのシッポさん

    紙ふうせんさん
    こんばんは(^-^)

    何だか ズッシリと来る詩ですね
    寺山修司さんは 昭和を代表する詩人ですね

    ハイセーコーが 人々に与えた影響は 計り知れないのだと 思います
    たかが お馬一頭 されど お馬一頭‥‥
    お馬を好きになった人は そのお馬から貰った物は 何にも代え難い人生を 送ります

    今の私は ゴールドシップから貰った物は 計り知れません(^-^)

    素敵な詩を ありがとうございました

    2016/10/15 22:29 ブロック

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