父と私と、とある競走馬

競馬に1番はじめに興味を持ったのは中学生の時だった。

私の父は大のギャンブル好きで競馬もやっていて。

たまたま一緒にテレビで中継を観たのが私のはじめて観た競馬だった。

そのレースは強い馬がたくさん集まっているレースだった。

どの馬も同じに観えた私は映し出された出馬表の中から名前がいいなと感じた馬を

応援した。



枠入りで映ったその馬は真っ黒でとっても強そうに観えた。

「アタシ、この馬が勝つと思うなー！」と父に言ったら

父はとっても嬉しそうに

「そうやろ〜！お父さんもこの馬を応援しとるんや！この馬が大好きなんや」と笑った。

きっと馬券を買っていたんだと思う。



レースが始まってどれくらい経った時だろう。

１頭の馬が派手な転び方をした。

何が起きたかわからなかった。

その馬に関係なくレースは進んだ。

転んだその馬は次に映し出された瞬間には立ち上がっているものの

フラフラで今にも倒れてしまいそうだった。

予後不良、安楽死なんて事を知らなかった私に父は悲しそうに、でもわかりやすく

説明してくれた。

はじめて観た競馬ではじめて知って応援した競走馬が目の前で命を散らせてしまった。

その馬は私の心に深く爪痕を残した。





一昨年、父は病気になり

昨年、他界した。

病床でふさぎ込みがちだった父をなんとか元気づけようと考え

私は競馬を勉強した。

父の助言を受けながらいっちょ前に予想をしてはダメ出しをされ

日曜は必ず一緒に病室のテレビで競馬中継を観た。

一緒に予想をして観たのは昨年の宝塚記念が最後となった。

父よ。

メイショウマンボが来る！って言って全然来なかったのを私は一生忘れない（笑）





父が他界してしばらくしてから

私は前述した馬の事をふと思い出した。

私が成人して以来、会話らしい会話もしなかったのに

父と私を繋いでくれた馬。

馬名だけを頼りに私が観たレースは何だったのか

その競走馬はどんな馬だったのか

ネットで調べ倒した。





その馬は1992年の菊花賞でミホノブルボンの三冠を阻み

1993年の天皇賞春でメジロマックイーンの三連覇を阻み

1995年の天皇賞春で自身の確固たる強さを知らしめた馬だった。

動画ですべて観た。何度も観た。

刺客？

悪役？

とんでもない。

私は彼ほど強く眩しい競走馬を知らない。



そして私がテレビで観たレースは

1995年の宝塚記念だと知った。




はじめて父とテレビで観た宝塚記念。

父と最後に一緒に予想したのも宝塚記念。

こんな運命ってあるんだなと感謝した。

本当なら父が存命中に調べるべきだったと今は少し後悔もあるけれど。

でも。

ありがとう

ライスシャワー。

本当にありがとう。



ライスシャワーのおかげで京都競馬場が大好きになった。

行くたびに彼の墓標に手をあわせる。

そしてお願いする。

「もしも父に会ったら一度でいいから背中に乗せてあげてね」と。


父はライスシャワーに会えただろうか。

会えてるといいな。