オツウの愛知杯（本馬場入場編）

　さて、本馬場入場が始まった。私はスタート地点で待ち受けることにした。
各馬、五月雨式にやってくる。「ブルンブルン」という鼻息とともに、
すぐ近くを疾駆して行くサラブレッドの迫力に圧倒される。
　オツウは最後の入場のはずなのに、思いのほか早くやって来た。逆光の中
ラチ沿いを走って来たため、直前までオツウとは気づかなかった。私の居る
辺りから下り坂に差しかかるので、騎手が「どう、どう」と声をかけて
スピードダウンさせる。

　やがて全馬の返し馬が終わり、ゲートが運び込まれる。すると、オツウが
単騎戻ってきた。松山騎手が厩務員を呼び、下馬。何やら嫌な予感がする。
だが、医師が近づく様子はない。どうやら鞍を直しているようだ。ほっと安堵。
　そうこうするうちに、全馬揃って輪乗りが始まる。再び跨った松山騎手を
厩務員さんが冷やかしているのだろうか、笑顔が見える。だが、オツウは
お構いなしに「綺麗に撮ってね」とカメラ目線。三者三様の表情が面白い。
外枠慣れのせいだろうか、他馬に比べてオツウは明らかにファンサービスを
心得ているようだ。

《続く》